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東京高等裁判所 昭和49年(く)70号 決定 1974年5月30日

少年 U・K(昭三〇・八・二四生)

主文

原決定を取り消す。

本件を宇都宮家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士横堀晃夫提出の抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、原決定の処分が著しく不当であると主張するので、記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果を参酌して検討すると、本件は、少年が、自動二輪車を運転して時速約四〇キロメートルで進行中、前方注視義務を怠り、同方向に右側通行し左側へ道路を横切つてきた被害者運転の自転車を、前方約一〇・五メートルに迫つて発見、急制動したが、間に合わずこれに衝突、同人に加療約二週間を要する頭部打撲などの傷害を負わせたという事案である。しかし、被害者は、右側の路地から出てきて、十数メートル道路右側を走行したのち、後方の安全を確認することも、左折の合図をすることもせず、いきなり左側へ道路を斜めに横断してきたもので、この被害者側の不注意は相当大きいと考えられる。これに対し少年はそれまで道路左側を制限速度内で走行しており、とくに脇見運転などした形跡もなく、その過失はむしろ小さいと思われる。以上の事情に、少年には一年位前に一時停止と速度違反で家庭裁判所の注意・講習を受けた非行歴があるだけで、日常の運転態度・方法等にそれほど問題があるとは思われないこと、また少年は、資質、生活環境、保護者の保護能力などに別段欠けるところはないばかりでなく、今春大学に進学し、将来は警察官を志望しており、本人の自覚を十分期待できること、被害者の傷害の程度も比較的軽くすみ、示談が成立していることなど諸般の事情を総合すると、少年に対しては、保護者の監督指導によつて十分に保護の目的を達成できるものと認められ、保護観察による専門家の継続的な指導援護をまつまでの必要はないものといわなければならない。したがつて、原決定には処分に著しい不当があり、論旨は理由がある。

そこで、少年法三三条二項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横川敏雄 裁判官 柏井康夫 斎藤精一)

参考 附添人弁護士の抗告申立書

申立の理由

宇都宮家庭裁判所がなした右少年に対する業務上過失傷害保護事件について、保護観察に付する旨の決定は、著しく不当である。

その理由は左のとおりである。

一、少年が惹起した交通事故の内容は、被害者にも多くの責任があり、その過失割合は相半しているものである。

二、被害者との間には民事調停事件により調停が成立し、その調停条項どおり履行したものである。

三、被害者側から少年が当時在籍中の栃木県立○○高校において一〇日間の停学処分を受けている。

四、少年は今春○○大学に合格し、横浜市に居住することになつたが、晴れて大学に合格し、気持をあらたに勉学に励もうとしているところであり、今日までも非行は勿論のこと交通事犯もなく、真面目な生活を送つて来たものである。

保護者である少年の父は税務署官吏であり、家庭の教育も充分期待できる。

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